内 養 功

中国の気功ブームの火つけ役
 2003年8月現在北載河気功療養院で内養功の実習ができます。


 1957年に劉貴珍がだした「気功療法実践」という本が気功という言葉が大衆の間に定着するきっかけとなった。
 それまでは導引とか吐納とか錬丹とか、静座とか禅定とか養生とかいろいろにいわれていた。それぞれに長い歴史と経験を含んでいて、決してひとつにはできない性格のものだが、共通して言えることは、健康維持に役立ち、病気治療の効果がある。また老化防止、長寿をもたらすということでる。そういった各種の伝統的な修練法が気功という一つの言葉にまとめられた。

 劉貴珍は「気功療法実践」のなかでこう言っている。
 気は呼吸という意味で、功は絶え間なく呼吸を調整して姿勢動作を練習するという意味である。
 この伝統的方法を医学的観点から再検討し迷信部分を整理し、臨床に応用して改良を重ね、療法としてまとめたものが気功療法である。
 気功療法実践は、内養功と強壮功が中心になっている。
 中国でも伝統医学よりも西洋医学が主流になりつつあったが、戦後、医薬品が不足していた時に、伝統的療法をとりいれようという機運が起こり、国家の肝いりで各地に気功療養所が開設された。
 1956年に開設された 北載河気功研究所では、劉貴珍の指導により内養功がとりいれられ各種の慢性病に応用された。「気功療法実践」はその経験をもとに書かれたものである。

 劉貴珍(1920〜1983)は河北省威県の貧しい家庭に生まれた。青年時代には天津で店員をしていたが、革命に参加し、以後は県の商工局などに勤務していた。1940年頃から胃腸病にかかり、不眠症やそのほかの慢性病にも悩まされたが、当時の医療は十分ではなく長期にわたり病気をかかえながら仕事をよぎなくされた。
 1948年に同郷の農民 劉渡舟から内養功を伝授され、ようやく治癒することができた。
 劉渡舟は内養功を先人から受け継いた。 
 言い伝えによると、内養功は清代初期に河北省南宮県双廟村の農民が政治事件を避けて五台山に逃げたときに五代山の和尚から伝授されたものである。村に戻ってから、病人を治療し、以後代々一人だけに伝授してきたもので劉渡舟で五代目にあたる。

 のちに共産党に入党した劉貴珍は、幹部の了解を取りつけ、劉渡舟を招いてさらに内養功を学んだ。
 内養功は呼吸と同時に神仏にまつわる語句(言葉)を声に出さず念じるのが特徴である。
 念ずる語句(言葉)が必ずしも神仏にちなんだものでなくてもいいと理解した劉貴珍は仏教的であったものを現代的に変えた。
元来は
自然静座仏堂龍盤爪、真対真半点不差毫分。八卦仙衣団龍綉、一到西天慶千秋。
というようなものだったが、自己静などに変更された。

劉貴珍の経験
 劉貴珍の経験談によると以下のように語られている。
 私は貧農の出身で12歳で家を出て自活していたが、過労、睡眠不足、栄養失調が重なり成長期に病弱となった。
 革命に参加してからも体調はよくなく薬食療法を始めたが病状は一進一退であった。
 1947年のことである。戦争のために各地を転々とし、生活環境の悪化と従軍の苦労で食事も受け付けない状態になった。血を吐くまで悪化し、食後30分は腹部の痛みで腰を伸ばすこともできない。苦しくて夜も安眠できない。やせ細り体重は40キロというありさまだった。診断の結果では胃潰瘍、肺結核、神経症ということだった。内養功を勧める人があったが、そういった迷信ことは信じることはできなかった。
 しかし、熱心に勧める人もあり、ついには内養功は神仏とは切り放して自己鍛錬によって病気を治すということを理解した。党組織の承諾をとって劉渡舟先生に師事して内養功を学び始めた。
 練功を始めた当初、内養功は気を練りさえすればいいものと勘違いして呼吸鍛錬を激しくやってしまった。そのため10日後にはわきの下が痛くなり、呼吸困難になり疲れ果て、腰痛まで起こしてしまった。呼吸が強すぎたせいだとわかった。
 そして練功1カ月で呼吸は楽になり、食欲も出て、食事がおいしくなり、睡眠もよくとれるようになり気力も出てきた。
 練功2カ月後に父が病気で倒れたこという知らせが来た。このことは自分の心を惑わし、練功効果に影響した。またあるとき、同僚が見舞いに来て、仕事上の心配事を相談された。このため4、5日間練功がうまく行かなかった。
 この経験から、練功中の患者には、心配事や不必要なことを耳にいれないようにしないといけないということがわかった。
 その後102日間の練功で胃潰瘍は見違えるように回復し、消化機能は正常にもどった。食事も普通になり20キロも体重を増やした。こうして気功のよさを体験した私は、組織の支持を得て劉渡舟を招いて、内養功の臨床研究を始めた。数年で「気功療法実践」を出版し、国内外に内養功を紹介した。

原則
 長年の練功で体得したことをまとめておく。
1、松静相補、順於自然  
 放鬆(リラックス)は気功特有の言葉で弛緩はしているが必要な部分だけが軽く緊張している状態を言う。
 身体の放鬆と精神の安静は互いに補い合うものである。すべては自然に任せて行う
 練功の過程では呼吸、姿勢、意守すべてにおいて自然に任せること。強制的にやってはいけない。特に意守は意守しているようでしていない状態がよい。意守しなくてはいけないが強くてはいけない。 緊張せずに行うためである。
2、練気練意、意気合一
 気功で言う気は真気のことである。当初真気を練るにはまず肺の気つまり呼吸の気から入る。呼吸の気を練る方法はいろいろあるが、ゆるやかに、一定のリズムで細く長くゆっくりとというのが要点である。呼吸は次第にゆっくり、次第に深くしていき時間をかけて理想的な呼吸に近づけるのであって短期間でやろうとしてはならない。当初は意念が先気の流れを誘導するが、次第に気は意念から離れて自然な流れを形成する。呼吸は均一でリズムカルになっていく。
 雑念を排除し、入静状態に入るのだがこれも一朝一夕にはできない。時間をかけて少しずつ雑念を減らしていく。入静と丹田意守は体に大きな変化をもたらす。
3、情緒安定、愉快な精神
 情緒の不安は病気の原因になる。練功時は必ず楽観的になり情緒を安定させなけらばならない。
4、順序を追って進む
 練功の効果は練功を積み重ねていく中で現れる。練功の方法は簡単なのだが、一朝一夕で完成はしない。練功を続けるうちに熟練してくるのである。
 まず姿勢を正しくするように注意して行い、その後深く長い呼吸を練習してから呼吸停止を練習していく。呼吸停止がうまくできるようになったら字句を黙念して、更に舌の動きの練習に進む。最後に意守丹田を同時に行うように練習する。
 このように順序だてて一歩づつ練習を進めていけば効果も次第に出てくるのである。
 また注意しなければならないことは人によって効果の現れるまでの時間が異なっていることである。
5、練養相兼、密接配合
 練功に邁進するだけではなく養にも注意する。呼吸鍛錬を行ったら同じ時間、何もしないで安静にしているのことが必要である。これを養という。養の間に呼吸と身体と精神の放鬆が得られる。
 また生活の中で適度に休息をとり、規則的な生活を心がける。
6、功法の選択、練功時間
 世に功法は多いが、研究途中の功法も多い。内養功は広範に応用されて効果が確かめられているので、そういう功法の中から本人に病状、体質にあった功法を、1、2種選んで続けるのがいい。
 一定期間続けてみて、効果がないようならその原因を突き止め解決の方法を模索する。功法が合ってなければ功法を変える。
 練功時間はその人の状況によって異なる。決して時間を強制してはいけない。
 もし、病気療養中の患者なら1日4時間以上練功するのがよい。
 病気回復後や健康維持のためなら1日2時間程度。
 全くの健康体ならば1日1、2時間で十分である。
7、経験から、偏差について
 練功の効果は徐々にでてくるが、いつも順調というわけではない。
 気功をはじめた当初、呼吸に力がはいりすぎたり、意守が強すぎたり、効果を焦りすぎたり、気の感覚を追い求めすぎたりといった原因から、呼吸が苦しくなったり、頭痛、めまい、精神の緊張などを起こすことがある。この場合にはできるかぎり早くただす必要がある。いわゆる偏差である。
 偏差も始め軽くだんだん重くなる傾向がある。偏差が出始めたときにただせばすぐ消えるが、偏差が重くなってからではなかなかすぐには消えないので注意が必要である。


内養功の方法
姿勢
1、側臥式
 枕をおいて右側を下にして横になる。頭部はやや前傾、枕の高さを調節して首が背筋の延長上にまっすぐになるようにする。背骨は前後に軽く弓なりになり、胸は開かないで、いくらか前がせまくなるようにする。
 右手は肘を曲げ指は伸ばして手のひらを上にして、顔の前につけて置く。
 左腕は自然に伸ばし手の指を伸ばして手のひらを体に向け、横たわる体の上に置く。
 右の脚は自然に伸ばし、左の脚は膝を120度に曲げ、右の脚の上に重ねる。
 両目を軽く閉じ目に一線の光が入るようにする。

2、仰臥式
 枕をおいてあおむけに寝る。かすかに顔をうつむきぎみにして、背骨はまっすぐ。
 両腕は体の横に自然に伸ばし、手はひろげて手のひらを体につける。脚は自然に伸ばし、左右のかかとはつけて、足先は自然に開く。
 両目を軽く閉じ目に一線の光が入るようにする。

3、座式
 椅子に腰掛ける。
 かすかに顔をうつむきぎみにして、背骨はまっすぐ。胸をかすかにせばめるようにして、肩と肘は垂らす。指は伸ばして手のひらを下に向けてふとももの上に置く。
 両足は平行に肩幅に開く。すねは床と垂直に膝は90度に曲げる。椅子が高すぎる場合は座布団などを足の下に置いて調節する。
 両目を軽く閉じ目に一線の光が入るようにする。

4、壮式
 枕を高くして頭から背中の部分にふとんを置いて体が斜めになるようにしておいてあおむけに寝る。かすかに顔をうつむきぎみにして、背骨はまっすぐ。
 両腕は体の横に自然に伸ばし、手はひろげて手のひらを体につける。脚は自然に伸ばし、左右のかかとはつけて、足先は自然に開く。
 両目を軽く閉じ目に一線の光が入るようにする。
呼吸
第1種呼吸法 硬呼吸法 (当初劉貴珍が実践した呼吸法)
 吸気 →  停止 → 呼気
 吸気時はじめの1句目を念じ、停止時に中間のあまりの句全部を念じる。呼気時最後の句を念じる。
 舌先を上の歯の根元につけ吸気、そのまま呼吸を停止して舌は動かさず、吐くときは舌を下に下ろす。
 呼吸は鼻で吸い、鼻で吐く。

胃潰瘍、12指腸潰瘍、慢性胃炎、慢性腸炎、便秘、低血圧などにすばらしい効果が認められている。

第2種呼吸法 軟呼吸(1957年に劉渡舟が伝授した方法。)

口を使って呼吸する。自然に口から息を吸う。

吸気 → 呼気 → 停止
 吸気時はじめの1句目を念じ、呼気時に2句目を念じる。停止時にあまりの句全部を念じる。
 舌先を上の歯の根元につけ吸気 吐くときは舌を下に下ろし、舌はそのままでそのまま停止する。
 呼吸は鼻で吸い、鼻で吐く。


胃下垂、胃腸機能低下、委縮性胃炎、慢性肝炎、肝硬変、便秘、高血圧、体質虚弱などにすばらしい効果が認められている。
黙念字句  3字から9字 
中国語では 我放鬆、我安静、我在静座、静座又放鬆、松静可以身体健康、
      自己静、自己静座身体好、自己静座身体能健康、など。

私は 健康に なる。
私は 静かに なる。
胃が 楽に なる。など。

参考(吸気 → 停止 → 吸気 → 呼気  林厚省紹介による)


意念
1、意守丹田
 普通は丹田に意念を集中させる。呼吸しながらへその下の丹田を注意する。
2、意守だんちゅう
 丹田に集中すると不都合の場合は意念を胸の中心だんちゅう穴へ集中させる。
3、意守かかと
 丹田、だんちゅうに意念を集中するのが不都合の場合は両足のかかとへ意念を集中させる。

参考
 意守するが意念は軽く用いる。意守しているようで意守していない状態。(林厚省)
   まず全身放鬆して雑念を排除する。(柴剣宇)
 注意事項(林厚省)
1、胃腸機能が整い、食欲が出るが、食べすぎないようにする。(林厚省)
2、空腹のときはやらない。(林厚省)
3、病状体質に合わせて姿勢、呼吸法、意守の場所を配合する。(林厚省)
4、動功と組み合わせることでより効果がある。(林厚省)

練功準備(馬済人)
1、身体松弛
練功前に適量の湯茶を飲む。体を締めつけるようなものはすべてとり、体を緩める。
2、意識松弛
練功に意識を集中して、精神を落ち着かせる。

黙念 声に出さずに意念で念ずる。
第1種呼吸法の場合 病気が軽く体力がある人
3字から始める。9字まで適宜増やす。
吸気で1字、停止で複数の字、呼気で最後の1字という風に増やしていく。(馬済人)
吸気のときは舌を上顎につけ呼気のときは離す。
空気を自然に吸入して下腹に導くいわゆる気沈丹田。

第2種呼吸法の場合 病気が重く体力のない人
口と鼻で呼吸する。自然に息を下腹に吸い込んで自然に吐く。その後息を止めて黙念しながら舌を上顎につける。黙念しおわったら舌を下に下ろす。続けて息を吸う。
吸気、呼気をおこなったあと、停止の時に黙念する。(馬済人)
鼻から吸い口から吐く。吸気は下腹に導き気沈丹田。
(柴剣宇)呼気で口から吐き舌は歯のつけねにつける。(柴剣宇)
息を下腹に導く、気沈丹田。(柴剣宇)
第1種と2種呼吸法は平行して練功したり交替に練功したりしてはならない。

意守
意守丹田、へそ下1寸5分のところ。雑念を排除して精神を集中して入静状態に達する。
練功が進むと吸気で下腹に気が吸入される感覚がある。
これを気貫丹田と呼ぶ。
呼吸 逆腹式呼吸または順腹式呼吸を意識的に行う。(林厚省)

上海内養功練習法

上海市気功研究所でまとめられた方法

     一、調息(呼吸)

 呼吸によって後天の気(食物の栄養の気)が練られ元気(真気 人体生命活動の根本)を活発にする。
 
 調息の作用
(1)呼吸がゆっくり、細く、長く、深くなることによって故吐納新(酸素を吸入し二酸化炭素を排出する)作用が強まる。
(2)全身の気血循環が改善される。
(3)大脳が休まり、入静状態となる。
(4)内臓の活動が活発になり、機能が高まる。
(5)自律神経が調整される。
呼気を意識的に調整することによって副交感神経(心拍数減少、血圧下降、胃腸蠕動活発化など)が増強される。
 吸気を意識的に調整することによって交換神経(心拍数増大、血圧上昇、胃腸蠕動弱まるなど)が増強される。
 自律神経失調による症状が改善される。
(6)丹田、腎、命門の内気が高められる。その結果内気(真気)が全身の経絡を盛んに運行する。
 
(一) 呼吸の訓練方法
 第一種呼吸法の訓練方法
 放松功、調息功の助けを借りながら 全身を放鬆し、大脳を入静状態にして、自然呼吸から入る。
自然呼吸から自然腹式呼吸になっていく。さらに次第に速度が遅くなり、細く深く長い腹式呼吸になる。
 その後停止を含んだ停閉呼吸となる。
 このように順に自然に進んでいけば偏差もない。
 一般に第1週目は放松功を練習し、2、3週目は放松功と組み合わせた調息功を練習、第4週目に細く深く長い腹式呼吸を練習5、6週目に停閉呼吸を練習する。

自然呼吸の方法
 静呼吸ともいう。普通時の自然呼吸と練功中の自然呼吸とは異なる。
1、全身放鬆した上で行う。
2、雑念を排除した上で行う。
 精神的に安静になった状態から意念を用いず緊張しないで行う呼吸。

腹式呼吸の方法
 呼吸時に気を意念で下腹に導き下腹部に起伏運動を起こす。
 腹式呼吸は自然呼吸の基礎の上に行われる非常に重要な呼吸である。
(1)自然の腹式呼吸
 調息(呼吸を調整する)の過程の延長上に次第に形成される意念は用いず勁(体内に内在する筋肉などの力)も用いない腹式呼吸。
(2)深く長い腹式呼吸
 一般には意念を使い、呼吸時意念で引気しながらかすかに(一点の)勁を用いる。
 腹式呼吸と逆腹式呼吸がある。普通は腹式呼吸を用いる。逆腹式呼吸の方が意念と勁が強い。
(3)黙念字句と停閉呼吸
 深く長い腹式呼吸の基礎の上に行う。
 吸気 → 停閉 → 呼気   丹田への集気効果が強い
 吸気 → 呼気 → 停閉   丹田の気を調和する作用が強い。

 吸気 → 停閉 → 呼気 の場合
 元来は吸気で1字句、停閉で1字句または複数字句、呼気で最後の1字句というようにやっていたが、停閉のときだけ3字から9字を黙念するという方に改めた。
 吸気 → 呼気 → 停閉 の場合も同様停閉のときだけ3字から9字を黙念する。
 停閉のときだけ黙念しても実際効果は同じであり、前者はなかなかむずかしくかえって緊張を呼ぶ場合が多かった。
 人によってはそれでも緊張することがある。そういう場合は黙念せずに呼吸と停閉の長短に集中するだけでよい。
(4)止息  心息相依の状態
 更に一歩進んで止息の段階に進む。
 大脳は完全に安静し呼吸と一体となっている状態。呼吸がきわめてゆるやかで自然になり、止まっているように感じる段階。意識せずに呼吸は続いているが、止まっているような感覚である。
 意識としては外呼吸(外部との酸素と二酸化炭素との交換)ではなく内呼吸(肺の内部での酸素と二酸化炭素との交換)を感じ、内気運行と呼吸と意識とが融合している。

第2種訓練の方法
 放松功、調息功を練習せず直接に深く長い腹式呼吸と停閉呼吸を練習する方法
1、軽く丹田に意識を置き、吸気で丹田に気を導きながら丹田部を膨らます。またはへこます。呼気でで丹田から気を押し出しながら丹田部をへこます。または膨らます。
2、1、2週間1を練習して慣れたところで黙念字句と停閉呼吸の練習に入る。このようにして早い期間で停閉呼吸を体得するが、第1種訓練の方法に比べてめまいや胸部の圧迫感、腹が張るなどの症状がでやすいので注意が必要である。
3、七次丹田吸気法を練習すると効果的である。
 丹田部に7回短く区切って吸気する。吸気した後、自然に息を止め、呼気し放鬆する。
これを7呼吸繰り返す。丹田部が呼吸に合わせて起伏運動することによって腹式呼吸が身につきやすい。
 これは煉精化氣の一つの重要な方法で、神経を鎮静する効果がある。腹式呼吸に習熟する早道である。

(二)呼吸要領
1、腹式呼吸を練習するときは必ずゆったりした静かな自然呼吸の熟練の基礎の上に行う。
 さらに自然な腹式呼吸の熟練の基礎の上に深く長い腹式呼吸を行うのであって、いきなり停閉呼吸を練習したりしてはいけない。
2、放鬆と安静に心がけ、息を無理に止めたり、意念を強くしたりせず、呼吸量が多すぎないようにと呼吸の筋力は強すぎないように注意する。
3、順序を追って一段一段練習を積んでいくこと。
4、吸気時は舌を上顎に軽くつけ、呼気時は舌を軽く下に下げるのであるが、人によりこの動作をすると緊張する場合がある。そういう人はただ舌は自然にしておけばいい。
5、呼吸の補瀉作用に注意する。
吸気は補、呼気は瀉が原則である。
多く吸い少なく吐くようにすれば補。その逆は瀉。
長く吸い短く吐くようにすれば補。その逆は瀉。
吸気時に意念を用い呼気時はもちいないと補。その逆は瀉。
吸気、呼気を同等にすれば補瀉調和である。
補瀉の応用は中医の臨床弁証理論に準ずる。
6、 風、喘、気、息
風、声のある呼吸。喘、気の出入りが尽きない。気、声がない呼吸。息、出入りが綿のように滑らか。蚕が糸を吐くような呼吸調和のある温和な正確な呼吸が息である。

        二、調心(入静)
 
 内養功においては入静できるかできないかが大脳の抑制、精神安定、雑念に影響する。
 入静は精神肉体がゆるんだ非常に気持のよい安静の状態である。
 放鬆が進み気血の流れが促進され、元気(真気)が活発に働き、健康に有益であるばかりでなく潜在能力が引き出されやすい状態である。
 一般に入静は浅いものから深いものへと三段階に進んで行く。
 
 初歩入静
 完全には雑念が排除されていないが、手足は気血の流れで温かく感じはじめ、外界への反応が弱くなり始める段階。
 中度入静
 雑念はなくなり感覚器官は閉ざされ、非常に気持のよい安静の状態。

(一)入静の方法
 当初頭の中に雑念が次々と浮かんできて、安静になりにくい。強制的に雑念を排除しようとしてもほとんど不可能である。次のような方法で排除する。
1、鼻の先あるいは足のつま先を見る。
2、舌を上顎につけたり離したり運動させる。
3、歯をかちかちとかみ合わせる。両耳の後に両手のひらをあてて、ひとさし指をはじいて音を立てる。
4、呼吸の数を数える。
5、呼吸の音を聴く。
6、字句を黙念する。
7、吸気で静かという言葉、呼気で鬆という言葉を想う。
8、楽しい思い出を思い浮かべる。
9、海、空など美しい景色を思い浮かべる。
10、好きな音楽を聴く。
11、時計の音や水滴の音を聴く。
12、丹田七次呼吸法を行う。など。
 それでも精神の安静が得られない場合は散歩して気分転換したり、動功を行ってから再度行う。

(二)意守丹田
 基本的には腹部の丹田を意守するが状況に応じてだんちゅう、命門、会陰、湧泉、足の三里などを意守する。
 丹田の位置は諸説あるが、一点ではなくへそから3センチ下がった周囲というようにだいたいそのあたりで十分である。
 錬丹術の用語である丹田は穀物を収穫する田という意味であった。
 中国医学ではへそと背中側の命門との中間点という考え方になっている。経絡が出会う場所であり左右腎臓の中間で元気の動き出す場所である。
 意守丹田は腹式呼吸をスムースにし、呼吸をゆっくり、深く、細く、長くする効果があり、入静を助け、内臓の機能を高める。また上虚下実(下半身は充実していて上半身は完全にゆるんでいる。)を実現しやすい。

(三)意守命門
 
 丹田を意守して行う腹式呼吸に熟練したら意守命門、意守会陰呼吸を適宜行う。
 命門は背中の中心を走る督脈上の穴位である。腰椎2番の下に位置する。丹田を前丹田命門を後丹田と呼ぶ場合もある。
 背中の腰椎2番の下にあり両腎の中心に位置する命門は両腎を統率し、心肺と脳へ連絡する生命の源で、精気の宿るところであると言われている。
 命門は火に属し、水に属する腎と相済関係にある。
 現代医学でもは命門の位置はは腎上腺と脳下垂体など分泌腺との密接な関係がわかっていると言われている。このためホルモン系統を調節する働きがあると考えられている。

 意守命門呼吸法
 まず丹田を意守し、へそを中心とした腹式呼吸を行う。
 吸気で腹部を収縮しへこまし気をゆっくり丹田から命門に吸うように意識する。
 吸い切ったところで呼気に転じる。
 呼気で気をゆっくり命門から丹田に向けて押し出すように意識する。
 腹部は前方に膨らんで来る。吐き切ったところで吸気に転じる。
 これを繰り返して、最後は命門を意守して動かさず、命門穴から呼吸しているように意識する。
 しばらくして(数分から10数分)意守丹田を行う。意守命門と意守丹田を交互に行う。
 女性は意守命門は行わず、意守気海あるいは関元で行う。

(四)意守会陰
 会陰は海底あるいは下丹田とも呼ばれる、任脈、督脈、衝脈の接点にあたる。
その位置は男性においては肛門と睾丸の付け根の中間点、女性は肛門と陰門の始まりとの中間点である。ただし、女性の場合は会陰をい意守せず、子宮口あるいは恥骨結合部の中心点を意守する。

 意守会陰呼吸法
 まずしばらく丹田を意守した後、下に意識を移動して会陰穴を内視する。  
 しばらくそのままにして、吸気しながら意識で会陰を中心にして引気する。
 吸気半ばで吸気に伴って意識を会陰から丹田に上げ、同時に肛門を引き上げ大便をこらえるように締める。 
 吸い切ったら呼気で丹田から気をゆっくり放出させるように意識する。
 9回繰り返す。慣れたら順次、36回まで回数を増やしていく。
 呼吸鍛錬のあと静かに会陰を意守する。
 意守している時間は各人の状況で長短を決める。
 最後は引気帰元する。すなわち腹部丹田に呼吸に併せて意念で気を戻す。
 意守丹田呼吸は練気、錬神であり、意守命門、意守会陰呼吸は煉精であると言える。
 錬精によって精血を調整し五臓六腑の気を調整強化することができる。
 両者を同時に鍛錬することによって総合的な効果が得られる。

注意点
1、意守命門、会陰は意守丹田の基礎の上に行う。
 数カ月意守丹田を行い丹田に熱感覚がでてきてからでなければやらない。
2、順序は丹田、命門、会陰、丹田の順に練功する。
3、命門は火に属し血圧は上がりやすい。高血圧のある場合はやらない。


(五)拍打放鬆入静法
 人体の部位で緊張おこりやすいのは以下の10箇所である。
1、眉間の印堂
 考え事や問題があるとこの部分に皺を寄せる。
2、首の後
 首の左右の筋肉が凝る。高血圧、頭痛、不眠など。
3、唇
 緊張すると唇がひうきつることが多い。
4、下顎の両側
5、両肩
 緊張があるとどうしても肩が上がり、ゆるみにくい。
6、両肘
7、手の指
8、胸と背中
9、腰から尾底骨
10、足の指
 これを上から順に両手あるいは片手でたたきながら放鬆していく方法である。

(六)振顫静立守虚放鬆入静法
 静かに自然に立ち、両手の手首を上下にゆすり手の指、腕を放鬆させる。
 同時に両足首を上下にゆすり下半身を緩める。
 両足は自然に開いて立ち全身を放鬆。空を意守する。つまり何も意念を使わず何も想わない状態になる。

(七)首の後と尾底骨を摩擦、指圧して放鬆入静する方法
 首の後と尾底骨の付近を摩擦あるいは指圧することによって、副交感神経を活発にし、安静に導くことができる。

        三、調身
  姿勢
1、座式
 平座式  椅子に腰掛ける。
 頭と首はまっすぐにして力は入れない。 胸と肩を後に張らずに背骨はまっすぐ。腰をゆるめ肩と肘は垂らす。あごをひいて鼻はへそに向ける。
 両足を床につけると 膝の角度が直角になるような高さの 椅子に座る。
 両足は平行に肩幅に開く。 指は伸ばして手のひらを下に向けてふとももの上に置く。
 両目と口を軽く閉じる。
 柱時計の重りがとまっているような感じ。
 
2、盤座式  結伽趺坐、半伽趺坐、あぐら
 平座式と要領は同じ。
 両手は交差して握る。男子は左手が下。女子は右手が下。


3、側臥式
 枕をおいて左右どちらかを下にして横になる。
 上側の腕は自然に伸ばし手の指を伸ばして手のひらを体に向け、股関節の上に置く。
 下側の手は肘を曲げ指は伸ばして手のひらを上にして、顔の前につけて置く。
 下側の脚は自然に伸ばし、膝は軽く曲げ、上側の脚は膝を120度に曲げ、下側の脚の上に重ねる。
 両目と口を軽く閉じる。

4、仰臥式
 枕の高さを調節してあおむけに寝る。
 両腕は体の横に自然に伸ばし、両手は伸ばして体の両側に置く。
 両目と口を軽く閉じる。

5、自然式站立
 立正式
 足の先を拳一つあけてかかとはつける。
 頭と首はまっすぐにして力は入れない。 胸と肩を後に張らずに背骨はまっすぐ。あごをひいて鼻はへそに向ける。
 腰をゆるめ両腕は自然に垂らし両手は股関節のあたりに置く。
 両手を交差して下腹においても良い。両膝は軽く曲げる。重心は両足の足心に置く。
 足に根が生えたように想像する。
 両目と口を軽く閉じる。
 
平行式
 両足を平行にして肩幅に開いて立つ。そのほかは立正式と同じ。

三円式站立
 両足を平行にして肩幅に開いて立つ。両手を向かい合わせてボールをつかむように構える。そのほ かは立正式と同じ。
 両手はへそから乳頭の間で肩から肘、腕が半円形になる。胸から両手は30センチ離す。膝は軽く曲げて腰をわずかに下げる。

下按式站立
 腕を垂らし肘を曲げて両手の手のひらを下に向けて上腹部に構える。指は広げ両手は15センチ離し水中でボールを押さえる用にする。

自由式
 姿勢ははかまわない。全身放松で意守丹田して呼吸を調整する。

   四、練功要領
 内養功が効果のあるもの
 胃炎、胃潰瘍、12指腸潰瘍、胃下垂、胃粘膜脱垂、腸粘達、消化不良、食欲不振、便秘などに卓効がある。
 そのほか、高血圧、心臓病、神経衰弱、非活発性肺結核、慢性肝炎、肝硬化、慢性気管支炎、喘息、肺気腫、委縮性胃炎、神経性皮膚炎、月経不調、男女性機能衰退、性力減退、不妊症、不感症、痔、などに効果が認められている。

練養結合
 練は意識的に練功することで、養は意識せず休むことである。
 呼吸を鍛錬したら、そのまま呼吸には意識をむけず休む。練したら養するというように行う。
 女性の生理中は養を中心として練は控えた方がいい。

収功
 収功は非常に重要で、気を丹田に戻すことである。
1、まず、意念で全身の気をゆっくり丹田に返すように意識しながら両手を腹部と胸部の前で三回上下させる。
2、続いて七次丹田呼吸法を行う。
3、一回長く吸気して肛門を引き上げて腹部をへこませる。
4、同時に両手で丹田を強く押さえる。
5、ゆっくり息を吐きながら両手を丹田のところからゆっくり離す。
両手を丹田につけて回転しながら摩擦するともっと
よい。
最後に手足と全身を動かして終わる。

   内養功の練功過程
第一段階

 呼吸を調整して自然腹式呼吸を形成する。
一、姿式
 座式、臥式を中心に行う。
二、方法
1、舌先を上顎につけておく。まず放松功を行う。
2、軽く丹田部に意念し、意識を集中する。
3、息を吐きながら松、息を吸いながら静を黙念して呼吸を調整する。
吸気よりも呼気に意識を置き自然腹式呼吸の完成をはかる。

第二段階

 自然腹式呼吸の基礎の上に次第に細く深く長い腹式呼吸に進む。

方法
1、舌先を上顎につけておく。自然腹式呼吸に熟練したら次第に細く深く長い腹式呼吸に変えて行く。
2、息を口で吐いて鼻で吸う。先に吐いて後で吸う。呼気時に松(そーん)を黙念し、同時に腹部をへこます。舌先は舌に離す。
吸気で静(ちーん)の字を黙念し、同時に腹部をゆるめてふくらませる。舌先は上顎へつける。
鼻で吸い口吐く意味はこれにより腹部の運動を強める。

第三段階
 細く深く長い腹式呼吸の基礎の上に停閉呼吸に進む。

方法
鼻で吸い鼻で吐く。先に吸い後で吐く。
吸気で舌先は上顎へつける。呼気で舌先は上顎からはなす。
呼吸の間あるいは呼吸の後で息を止めている間に字句(言葉)を黙念する。
2字から9字まで適宜。
字句を黙念しなくてもよい、ただし息を止めている時間を意識する。

(1)吸気   停止(字句を黙念する。あるいは時間を意識)  呼気
(2)吸気   呼気  停止(字句を黙念する。あるいは時間を意識)

   五、偏差の防止と対応

偏差の原因
 姿式が本人に合わない場合、正確でない場合。
 意守が強すぎる、呼吸が不適当、気感や反応を追及しすぎる、感情がたかぶったまま練功した場合、あせったり悩みがあった場合、練功中に大きな物音におどろいたり、いきなり中断した場合など。

起こりやすい偏差の症状
 めまい、頭痛、頭の膨張感、胸が苦しい、腹部が張る、熱がでる、寒気、震え、内気が流出するように感じるなど。

措置
 まず偏差の原因を探る。
 呼吸はふいご、練功は炉にかけられた鍋で薬物を作ることにたとえられる。火力が弱すぎてもいい物はできないが強すぎては大変である。
 練功によって火が強くなりすぎると偏差が起こる。以下のように退火させる。
 気が局所に集まって起こる症状の場合、六字訣呼吸法で内臓の気を瀉して(瀉は分散させたり吐き出したりすること)調整する。
 頭痛、頭の膨張感胸がくるしいといった症状の場合、陽気が上がりすぎ実熱(気が集中して邪気をふくんでいる状態)が考えられる。
 湧泉(足の裏の中心)、足の三里(膝の下10センチほどで外側)、内関( 手首の内側で5、6センチ上)、などの手足のつぼを意守して調整する。
 胃腸実熱による腹部の膨張感には足の三里を意守して実熱をとる。

 椅子に座って足の先を上に向ける。両手は膝の上におく。
 この姿勢で両足の親指を見つめて気を下げる。

上から下へ向かって、順に手でたたいて退火させる。