気功治療と少林内勁一指禅

 

上海での臨床経験

私は1992年に上海で少林内勁一指禅に出会った。当時上海で通訳をしていたYさんから、一番いい気功らしいと紹介されたのだった。和平公園で毎日指導していた劉茂林先生の気を受けて、私は初めて、気の感覚をえた。その感覚は気感というもので、日に日に確かなものとなっていった。

後に朱先生から道家紫霞功を伝授されると、気感は、労宮穴打開となり、さまざまな気を読み取ることが可能となった。体の状態を気で見たりすることもいつのまにかあたりまえとなった。
恩師劉茂林先生も数年前に世を去った。白髪で小柄な先生が、毎日和平公園で教えていた姿を忘れることはできない。

中国医学の基礎知識、解剖学、鍼灸学、病理学などを現場の先生方から習った。解剖学だけではなく、特に五臓六腑を扱う臓象学説、気血津液学説、経絡経穴の知識は不可欠である。外気を病巣に導くのは経絡経穴を通してであるから、経絡経穴を熟知してはじめて、気のコントロールができ外気治療が可能となると教えられた。

その後私は縁あって、上海気功研究所の董妙成先生について上海虹口区中心医院気功治療科で、治療実習で腕を磨いた。しかし、気功外気療法について、私は万能とは考えてはいない。ひどい坐骨神経痛で苦しんで、上海へ治療を兼ねて勉強に行った私自身が、外気だけでよくなったわけではなかったからでもあるし、効く人と効かない人がいたことも事実だからだ。

いくら被施術者の気や、自然界の気を取り入れて使うといっても、それをコントロールするために施術者の気を使わざるを得ないわけで、施術者の気が損なわれることもある。そこに限界もある。よほど、練功を積まなければできるものではない。練功も積まず、次々に外気治療を行うならば、施術者の気を損なうということを身をもって実感した。

少林内勁一指禅は、意念を使わず、武術的な気を養うのが特徴で、練功をすれば、十分な気の充電ができる。丹田も意識しなくても自然に気が充実してくると言われている。テレビをみながらでも練功できる。一日に何時間でも練功できる大変練功しやすい功法である。

少林内勁一指禅の特徴

劉茂林先生の指導ではまず、準備動作によって、体をほぐしてから馬歩站椿を行う。先生は気を送り続け生徒は、さまざまな反応をする。地面を転がる者、泣き出す者、走り出す者などである。劉茂林先生の発気方法は、握った手を勢いよく開く爆発導気と、手と腕を波打たせる指先による発気が主だった。爆発導気のときには同時に片足のつまさきで地面をけっていた。手で引くような動作につられて生徒は前に引き寄せられた。

 少林内勁一指禅の特徴を少林内勁一指禅内部文書から引用してみよう。 

少林内勁一指禅は羅漢神功とも言う仏教系の気功流派である。
福建省泉州、南少林に伝わるもので、数百年の歴史がある。
18代伝人の闕阿水は南少林寺で僧侶となって秘伝をさずかった。還俗して、上海で数十人の弟子に教え、気功治療を行った。惜しくも1982年63歳で脳溢血のため、世を去った。

内勁とは、備わっている内在的な能力と説明されている。武術では暗勁とも言われる。
一指とは、鍼の代わりに指を使って治療するという意味がある。

馬歩たんとうにより、脳への血流量が減少し、入静状態となる。血圧が調整される。このとき行われる、板指功法によって、大脳皮質への刺激となり、脳細胞が活性化する。このことにより、頭痛や精神面でも改善効果が認められる。練功するときの方向は、南北方向がよい。
またたんとうによって唾液の分泌が多くなる。これを飲み込むことによって、消化器官の働きが改善される。
立って、膝を曲げることにより、毛細血管が開いて血液循環がよくなり、新陳代謝が盛んになる。曲げた膝の周辺の筋肉は、いわゆる筋肉のポンプ作用によって、血液循環が促進される。
手は前方へ向けられるが、馬歩に入ると、静脈が浮いてくる。はじめは、びっくりしたが血行がよくなった証である。真剣にやると汗が、床にしたたってくるほどである。

 王名元師の文書から外気治療の奥義を引用してみよう。

内気外放 常用手法および常見疾病への療法

外気つまり、気功師が体外に放出する生命情報エネルギーを受けた者が感知し、反応が起こる。この反応は、生理機能を改善し、治癒能力を誘発する効果を生じさせる。
中国では科学研究によって、外気は、物質的なものと証明されている。

中国医学の基礎である、弁証施治により操作を行う。経絡、経穴を調整することを含んでいる。

(一)施術者の気の来源

練功によって、新陳代謝が活発になり、全身の機能が調整されている状態のときに、外気がでやすくなる。自然の気を絶え間なく吸収しながら外気を出す。
物質的気を放出するため、体内の物質的消耗を積極的に補う必要がある。ひとつは、食物によって気のもとを摂取する。

1、自然の気を体内に吸収する。
樹木の気を採取する方法、
樹木に向かい自然に立ち、腕を自然に曲げて、樹木の幹に手のひらをつける。足を根につけて、左の腕をたらし、手のひらを後ろに向ける。そのまま意念を用いず、自然にまかせる。時間は適宜。

2、水穀の気を摂取する
高カロリー、高たんぱく食品をとる必要がある。牛肉、魚、蜂蜜など。ばくもんとうを飲むのもいい。
飲酒は少なくする。施術中功力を高め、疲労を抑えるため、熱い飲み物を飲むようにする。

3、性生活の注意
精を傷つけ気を消耗しないため、男性は性交しても、射精はしないように、精力を保持する。女性は男性に比べて精をもらすことが少ない。

(二)施術操作の注意

1、空腹のときは施術しない。目がまわったり吐き気がおきることがあるので、熱い湯や、高カロリーのものを食べるのもよい。
2、疲れているときは施術しない。
3、感情が高ぶっているときは施術しない。怒っている状態では、気は上がっている。恐怖がある状態では気は下がってしまっている。感情不安定によって、吐気、気持ち悪い、頭痛などを誘発することがある。
4、被施術者が緊張が強い場合は行わない。
   被施術者が受け入れない場合には、気の交流がうまくいかないので、操作は成功しにくい。
5、気温が18度以下の状態では行わない。
暖房などで、室温調整をして、行う。18度以下では、外気発放がむずかしいし、効果も少ない。
6、セックスの後では施術しない。

(三)適度に行う。

症状により、外気をあてる時間は一定ではない。普通は、20分から30分程度行う。さらに別の被施術者を施術するときには、10分から20分休息してから行う。施術中は施術者は自分の体温が上昇しているように感じ、手も温度が上昇する。もし、自分の手が冷たく感じるようなら、施術を中止すること。

施術の時間が長いと施術者の健康を害する。めまい、気持ちが悪い、吐気、あくびなどが出たら、練功で回復をはかる。悪寒や発熱にまでなった場合は1週間休養し、静功をすること。

(四)禁忌


太陽穴、心臓、肝臓に対しては、剣指で行ってはいけない。剣指は気を集中させるので、過剰反応が出ることがある。
妊娠3ヶ月までは腹部に施術してはいけない。流産あるいは奇形の可能性がある。
10歳以下の子供の頭部に施術してはいけない。発達過程の頭部の場合知力の発育に影響があることがある。

 

(五)準備

いかなる姿勢でも、被施術者はリラックスできる状態にする。
被施術者が病魔に打ち勝つ精神力を持たせるようにする。
説明して、被施術者の気持ちを操作を受ける方向付けを行う。

 

常用手法

気功外気療法は、中医学の基礎の上に、総合的に行われるもので、鍼灸、推拿、漢方と併用されるものである。なかでも推拿の手法は必須の技術である。

直接的に病根を焼き消す方法

病根部へ手を当てるか、5から10センチ離して、気で焼く。

足の裏を被施術者の腰部の命門へ当てるか、5から10センチ離して、湧泉から気を発放する。
高血圧、めまい、関節病、など。補腎作用。

● 圧放法
被施術者に接触せずに患部の上部から下部へむかって、手を自然にあてて、移動する。移動しながら手の指をひろげる。続いて下部から上部へ移動しながら手の指を曲げるようにする。
痛み、慢性病。経絡を通し、陰陽を調整する。

● 振動法
手のひらを患部へ向け、指は軽く曲げる。その形のまま、振動させる。または、経絡の方向に気を導引する。
痛み、慢性病。経絡を通し、陰陽を調整する。

手指穴位注入法

● 剣指穴位注入法
親指と薬指、小指を環状に接触させ人差し指と中指を伸ばす。この手の形で穴位に気を注入する。
鍼灸の選穴と同じ。経絡の気を調節、鎮痛、邪をとる。

● 中指穴位注入法

中指を下に向けて伸ばし、他の指を上にそらす。この手の形で、手首を支点にして、細かく上下に動かしながら気を注入する。
鍼灸の選穴と同じ。経絡の気を調節、鎮痛、邪をとる。

空心掌拍打法

掌を丸めて手の中に空をつくり、力を抜いて叩き、あたる瞬間に手指をひろげて伸ばす。このとき、パンという音がはじけるようにする。皮膚の気孔から気が入っていくような感覚。このように患部あるいは、経絡に沿って叩いていく。浸透させるように行う。

刺激局部の皮膚、経絡を通し、血液循環を促進する。

朱先生の得意技だった。

爪形法

五指、あるいは三指で患部へ向かいつかむようにしながら、時計方向に指を回転しながら患部から手を遠ざける。次第に手指はつぼまり50センチくらいまで遠ざけて手指は完全にくっつく。これを反復して行う。

瀉、排毒の効果。
董妙成先生の常用手法だった。

搓法

手指を軽く曲げて、患部にあて、上下左右にさする。

経絡を通し。皮膚に栄養を与える。

経絡を通す法  経絡導引

1、手のひら、あるいは剣指で経絡に沿ってたどり、手足の末端まできたとき、急激に遠ざける。
2、剣指で経絡に沿って回転しながら移動する。
3、人差し指と中指をつけて、親指とで円をつくる。その手の形で経絡に沿って揺り動かす。
経絡を通し、気血を調節する病魔退散。

導引法

● 肢体導引法
麻痺など
経絡を通し"気機(気の動き、昇降出入)"を調節して病気を操作するために、施術者は外気を発放し、気でコントロールして被施術者の体を動かす。
● 被動性肢体導引法
剣指あるいは中指で穴位注入法を行い、経絡をたどり、動きがあったら、引き上げたり導引したりする。手指を自然に曲げて、糸を引くように指を一回回転させて上方へ引くように動かす。

片手で牽引し、片手は下からあおるようにする。

自由性導引術

慢性病など
被施術者には馬歩たんとうを5分から10分行い、リラックス状態になる。術者は被施術者の労宮穴の気を確かめて、下方に導引する。被施術者は後ろに押されたように動く。
外気外放して後、牽引、あるいは、手を握って強く開き、被施術者を前後に揺り動かす。また、被施術者の体を回転させるように導引してもよい。この目的は"気機(気の動き、昇降出入)"を調整して病気を操作することである。

以上は、暗示の要素が強い。しかし、外気のコントロールがあることも間違いない。

収功法

どんな施術をしても終わる前には収功を行う。
上から下へ経絡に沿って導引した後、両手を交差して気の交流を切断する。
自己の労宮穴を点按しながら、足を床をつかむようにするのもよい。
一般の収功を行い、自己の気を収める。

 

意念を使わない

意念を使わないで、外気を発放する。そのメカニズムは、条件反射と言える。患部に手を向ければ、自然に気が出るのを感じる。被施術者も相応の反応が見られる。

皮膚の毛穴から、呼吸を行っている。肺の呼吸で吸気しているときには、皮膚呼吸では呼気となっている。反対に肺から息を吐いているときは皮膚では吸っているということになる。
このため、被施術者の排出する病気の気は簡単に施術者の体内に皮膚から侵入する。施術者に相応の反応が起こる。このため、厳重な濁気があると、即刻施術者に嘔吐などが起こる。

では、どのように施術者の体内に侵入した濁気を排出するのか。
入れば出る出れば入るの原則があり、自然の中で練功すれば濁気は出て行く。厳重な濁気の場合には空気のよいところで行う。また、樹木や花に患部を焼く手の形で、20分から30分立つことで、排出できる。ハーブティを飲むのもよい。

発放外気の量を調節する方法

右手で施術中、外気の量を増やすには、左の肩を摩肩(肩関節を前後に回転させる)する。または、手首の関節を揺らして、気の量を増やす。

内気外放は物質的な基礎にしているので、エネルギーを放出することになる。このエネルギーは生命を維持するのに必要なものであるから、出すばかりでは健康を害する。練功によってエネルギーを補給しなければならない。
特に肝臓病があるものは施術を行うのは危険である。肝臓は血を生む臓器なので外気発放によって傷つきやすい。

ただし、健康な者が外気外放を行う場合、節制を持って適度に行えば、さらに自己の気力を高めることができる。ひとたび外気外放の能力が練功によって備わっても使わないでいると退化してしまうので、適度な外気外放によって、経絡が通り、気血が旺盛となる。

外気外放中に被施術者が、しゃっくりがでたりするのは正常反応だが、強く反応が出た場合は下方に導引して一時発気を停止する。

ヒント

当会の気功外気療法の方法は、上海では気功推拿療法といわれているもので、推拿と外気を組み合わせたものである。日本で言われている外気療法とは違うが、共通したものもある。いいところはお互いに吸収しあい、発展させていくことが肝要である。

少林内勁一指禅、その他の気功外気療法の方法も積極的にとりいれ、総合的な気功をめざす。

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