少林内勁一指禅   劉茂林による。


 禅宗に伝わる気功法である。科学的で学びやすく、奥が深い。気に対する反応も早く、 達磨は禅宗の創始者である。釈迦の28代弟子で、中国北魏時代、インドから渡り、少林寺で禅宗を創設した。その修練方法は文字に残されず、弟子に口伝承されて来た。 内気外放によってこれまで多くの治療が行われている。

 第一節 予備功

一、揺肩通六関
 両足を左右に開いて立つ。足の内側が肩幅と同じ幅にする。足の裏を少し丸く地面をつかむようにして、膝を軽く曲げる。
 左の腕を自然に垂らし、左の手のひらを内側に向けて、左肩を下にさげながら、腰を右にねじり、左手が右膝の前に来るように左肩を前方へ出してくる。続いて、左肩を持ち上げるようにして肩の先が耳の付け根にふれるところまで上げる。同時に左の腕と手は肩の動きにつれて、指で斜めに右側の腹から胸をなでながら左の脇の下まで引き上げる。肩と腕が体の真横にきた時、腰を左にねじり、左手は脇の下から背中を手の甲でなぜながら腰からお尻まで下げ、左の肩も下がる。すべて顔は正面を向いたままで行う。以上の動作と同時進行で右の肩をおとし前方へ送りながら、右の手のひらを左の膝の前に出し、右肩を耳の付け根に上げ、腰を回し、右の手で左の腹から右の胸を摩擦し、脇の下から手をひるがえし、手の甲で背中、腰、お尻を摩擦していく。これを交互同時に64回繰り返す。

二、虚歩陰陽掌
 左脚を後ろに引き、左の膝は曲げ、右脚と45度になるようにして立つ。右脚は前方に半歩出した状態で膝は軽く曲げる。両足はぴったり地面につけ、重心は左脚に乗せる。
 顔は、前を向いたまま動かさない。視線は地面と平行。まず、左に腰をねじり右肩を前に向けて、右腕を肘を落として前に手のひらを上に、顔の高さに上げる。左腕は後ろに手のひらを上に頭の高さに上げる。次に両手の手のひらを返して、両手を体に沿って下ろし、腰を右にねじりながら、手のひらをかえし、右手を後ろに挙げ、同時に左手を顔の前に挙げる。32回行う。さらに左右を入れ替えて32回行う。            
三、転臀磨丹田
 両脚を肩幅と同じに開き、両膝を軽く曲げ、両手を腰に当てる。親指は腰のうしろの腰眼穴、あとの4指は前に向ける。上体は動かさずに、臀部と腰を左まわりにまわす。先に左に32回。次に右に32回。
                          
四、旋腰猫洗顔
 右脚を前に半歩出し、左脚に重心を乗せる。
右手を挙げ、親指を前に向け手のひらの労宮穴を左の目の横の太陽穴に近付け、3センチほど離れたところ。肘を下げ腕を垂直にからだを左にねじる。頭は動かさず、顔は前を向いたまま視線はまっすぐ前を向けたまま。右の肩も腰に合わせて左に向ける。左手は自然に下げておく。次に左の肩を前方にまわしながら、右手は前方にでてきた左肩の前をさっと下ろし、同時に上半身は腰から右に回転左手が楕円を描きながら右の太陽穴の前に上がる。これを止まることなく繰り返す。左右交替して各32回づつ行う。

五、雲手撫心窩
 両脚を開き、両手指を軽く曲げ、全身リラックス。重心は両脚の間におく。
 上半身を腰から90度左にねじり、左手を手のひらを下向きにして、肘を落とし腕を安定させ、左のふとももの前上に持ってくる。肘と手首は地面と平行にする。
 右手は手のひらの労宮穴を胸の中心にある檀中穴の前3センチに位置させる。上半身を腰から右方向に回転させ、両手はそれに合わせて180度右に回転させる。体の重心は両脚の中間に安定させ、視線は地面に平行、体の動きに合わせて回転する。続いて、左右の手を交替させ、左に回転する。
 ゆっくりと48回繰り返す。                 

第二節 馬歩站しょう起勢
(1)予備姿勢
 両脚を肩幅と同じ幅で平行に開いて立ち、全身の緊張をとって、胸は心持ち丸く、肩の力を抜いて落とし、両腕は自然に垂らし、手のひらは内側を向け、腹を引っ込めるようにして、肛門の筋肉を締める。両目は視線を地面と平行に前方を見る。
(2)馬歩提手
 腕から肘、肘から手首というふうに腕を付け根のほうからゆっくりと前方に挙げる。肘を90度に曲げ、脇の下を緊張させないように注意しながら、腕が地面と平行にして、手のひらを下に向け、肩幅程度に開く。手の指はまっすぐにして力を抜く。以上の腕を挙げる動作と同時に膝を曲げ、腰を落とす。足の先端寄り前に膝が出ないように、腕を挙げるのと連携して、膝関節は90度から120度の範囲で曲げる。
(3)十字如来
 両腕を体の左右へゆっくり開いて、手のひらを自分の方に向け、腕は円形にさせる。そのまま肘を曲げ両手を腹の前で重ね、手の甲の外労宮穴と手のひらの内労宮穴とを合わせる。ゆっくり体の中心任脈に沿って両手を挙げ、首の天突穴の前で止める。

     (予備姿勢)      (馬歩提手)      (十字如来)
(4)双龍出潭
 両手を天突穴から胸の中心だんちゅう穴まで下ろし、左右に広げる
(5)烏龍翻江
 両腕を交互に前後に泳ぐように動かす。右手を前方に手のひらを下に向け、伸ばし、左手は手のひらを下に向けて腰のよこで構える。右手を少し高い位置で手前に引きながら左手は少し低い位置で、手前に伸ばす。このとき両肩は首を中心に回転運動し、顔、目は前を向いたまま動かさず、腰も回転運動させる。胯関節、足首も動く。
 これを3回繰り返した後、馬歩の姿勢に入る。

 小林内勁一指禅の魅力  徐茂林による。

 小林内勁一指禅は仏教、禅宗の上乗功夫である。達磨の創造したもと言われている。清の時代に福建省南少林寺に伝えられ、小林武術として、倭冦との闘争で名声を博した。その後は禅僧によって、一代に一人だけにに伝えられ、文字には著されず、口伝されてきたものである。第十八代の伝人 闕阿水 は単伝の戒律を破り、姜廟桃、劉茂林、蔡秋白、黄仁忠、林厚省、王瑞亭、王忠良、徐鶴年、胡吉甫、楊春発、黄恵賓、張金華、李培海、李関英、王正、張金発、陳守勤、など20数人に公開伝授した。
 弟子の一人である徐鶴年は、1950年代心意六合拳 を習っていたが、1960年闕阿水と会い、入門を請う。2年の後入門を許され、以後闕阿水に従って、練功し、研究に携わった。闕阿水とその弟子たちは上海原子核研究所の内気外放の物理的研究にも参加したが、1982年に本を執筆しようとするが、志し半ばにして闕阿水はこの世を去った。徐鶴年はその意思を継いで「小林気功き宝 内勁一指禅」復旦大学出版社1992年8月刊行を編集した。
 
「小林気功き宝 内勁一指禅」
 第一章 概観
 第一節 源流
 小林内勁一指禅は意識功、硬気功、武術とは異なる、意守をしない動静相通した内勁功であって気功中の独特な功夫である。
 内勁とは、人体に潜在している力量のことで、人体活動のエネルギーである。
 武術では爆発力という表現が使われている。生命活動の基礎的な物質であり、抵抗力、免疫力、健康を維持する能力のみなもとである。
 練功によって、陰陽のバランスが改善され、経絡の気の流れがスムースになり、気血が調整され、内勁が蓄積される。
 一指とは、練功以後、内勁が指先から外気となって発放することから言われる。
 禅とは、仏教の宗派のことである。

 禅宗の開祖達磨は、インド(南天竺国)の香山王の第三子で、釈迦から数えて27代の仏徒である。少林寺で、禅を開き、自らも9年にわたる壁観を行った。
 十八羅漢手 という拳法を弟子に教え、これが一指禅の基礎になっていることは間違いのないことである。十八羅漢手は少林寺拳法に発展していくが、福建省泉州市の南少林寺に伝わると武術家が育った。
 闕阿水は家が貧しく、7才で出家、南少林寺で学んだ。南少林寺で真摯な練功態度を認められて、三代禅師から小林内勁一指禅を伝授された。日夜苦労をものともせず練功、武術と医術を身につけた。25才で還俗、1946年上海に移り工員となったが、暇があれば熱心に難病患者の治療にあたり、次第に気功神医と呼ばれるようになった。
 生活が安定すると闕阿水は小林内勁一指禅を公開伝授を開始した。
 中国には8万4千余りの功法があるが、小林内勁一指禅は他の流派にひけをとらないものである。

 第二節 小林内勁一指禅の特徴
一、練功の整体観
 人間は自然の規律に従って生活しないと、邪気に犯される。
 馬歩たんとうでは百会から天の気、足からは地の栄養を吸収して、病気を避け、健康を保つのが目的である。
二、自然に任せて、順序に沿って進む。
 人によって、体は異なり、内気の運行も異なっている。その人の内気の運行規律に従い、それを妨害しないで自然の運行に従って練功する。偏差を防止することにもなる。
三、体内の意念を使わず、意守もしない。
 自然状態に任せ、自己の体内の内気の運行規律に任せておく。練功中は、テレビを見たり、話しをしながらでもいいのである。つかれたら一休みして、お茶を飲んだりしてまた続ける。終わるときも、特に収功動作は必要ない。
 意守せず、気の動きを自然にして、自然に発展させる。こうすることで真気が練られ、内勁が増加して、始めは経絡から五臓六腑、さらに骨格、骨髄へと巡って行く。 この方法は偏差も起こらない。
四、ばん指功法
 ばん指功法は小林一指禅だけが持つ功法である。練功中、手の指と足の指を規則的に順に動かすことで気血、陰陽を調整、正気を高め邪気を排するのである。
 指先には手の親指は太陰肺経というように経絡の先端が達していて、指の動きでその気の流量や、速度を調整できる。
 またこの訓練によって内気外放のコントロールができるようになる。
第三節 治療
 練功が進むと、外気で病気の状態を測ることができ、さらに医学知識があれば、治療もできるようになる。一般には2〜3年かかる。
 第二章 経絡
 たんとうの姿勢は正確でなければならない。姿勢によって放鬆できるだけではなく自身の経絡穴位から発功する外気のフィードバックによって、体内の経絡を運行する内気を調節できる。
 呼吸は自然に任せると、内気の状態に応じて呼吸も必要に応じて変化してくる。
 ばん指功法は陰陽五行の理論に基づいている。経絡の知識が必要である。
     以下経絡の説明に60ページ使っている。
第三章 練功要領
 第一節 たんとう
 たんとうは鏡で姿勢を矯正しながら自学できる。
 闕阿水師によれば、たんとうには501種あるということであったが、師の突然の死によってその多くは世に出ることなく、消えた。現在伝えられているのはそのうちの数十種である。馬歩、虚歩、弓歩、一字歩、七字歩、丁歩、捕歩、点歩、畳歩、虎形、龍形、蛇形、金鶏独立などすべて基本のたんとうである。基本をマスターした弟子には上級功法も教えたので、現在も発展している。
 数多い基本のたんとうの中で順序があるわけではない。その人の状態に合わせて選択して練功するのである。なかでも馬歩たんとうが最も一般的入門功法となっている。 三、四か月周期でたんとうの種類を変えるのがいいが、時間などについては経験によって決める。
 早朝、夜など、1、2時間やるのが好ましい。
 方向は午前中は東南、午後から夜は西南を向いてやるのが良い。練功初期には病気によって、冷、熱、痛み、しびれなどが起きることがあるが、内気が経絡に沿って病気の部位に流れるとき、内気の流れにくい箇所に起こるもので、次第に自然に消失する。このとき気功師による外気治療を行うと効果がある。
 闕阿水は、開始と終了の動作は必要ないと指導していた。
 姿勢は低くして始めるが、練功中に疲れるようなら途中から高さを上げても良い。低い姿勢の方が効果がある。

 姿勢の正確 鏡で、姿勢常に姿勢を正しながらたんとうを行う。
 放鬆の徹底 体の力を抜けるように、準備して行う。
       精神の緊張も解いて行う。
 恒心    毎日続けることが重要である。
 徐々に進む 練功時間は初めは回を重ねる毎に徐々に延長していく。
       姿勢の高さは初めは低く回を重ねる毎に徐々に高くしていく。
       たんとうのかたは楽なのからきついのへと進む。

一、馬歩とう
 初めは馬歩とうから初める。
 方法
 足を肩幅に開いて、両足を平行にして立つ。足で地をつかむようにするが力はいれず緊張しているようで緊張していない状態。足先からの垂直線から膝の端が出ないようにして腰を落とす。重心はかかとに、足の裏を地につける。両膝を外に広げ、足の側面からの垂直線と膝の側面が同一線上にくるようにする。膝は150度に曲げる。 軽く肛門を閉め、かすかに腹を凹ませる。脚が円を描くようにして腰、胯関節をゆるめる。背骨を伸ばし肩をやや前に上半身をまっすぐにして,椅子にこしかけているようにする。
 肩を落とし肘を曲げ、前腕は互いに平行で地とも平行に構える。肘は約120度に曲げる。脇の下はこぶし一つ入るくらいにあけ、腰と肘の距離はこぶし二つ位にする。手の指はのばして手全体が地に対して弓状になるように、手首に力をいれない。人差し指が最上階で地と平行、残りの指は段々にはしごのように下がる。
 あごをひいて、両目は視線を斜め下に落とし、頭を落とさず左右に傾けない。
 注意
 舌の先を上顎へつけたりはしない。口は閉じない。
 上半身は下半身より力をぬく。腕はつっているような状態あるいは硬くしているような状態ではなく、左右にも歪めないようにする。腕の気を通す。
 両足に平均に重力がかかる。そうすることでようついに気を通す。
 功理
 頭が天を向き、手、足が地に向き天地の気を吸収する。内気は自然に回る。

二、虚歩とう
 左足を前に半歩出す。両足の間は足半分の長さ。右足に対して左足は30度に開く。右足は膝を130度に曲げ、足先からの垂直線から膝の端が出ないようにして腰を落とす。左足はかかとを上げ、爪先が地についた状態。
 左手は馬歩とうの姿勢からそのまま前に手一つ出した状態。
 その他の点は馬歩とうと同じ。
 男は左足前から始めて、なるべく5分以上で左右を交替する。女は右から開始。
 前と後ろの足は3対7の重力配分になる。前の足はかかとをつけない。

 以下については今回は省略しますが、ばん指法のいくつかを紹介しておきます。馬歩とうをやりながら行います。
 近視防止のばん指法
 馬歩とう15分してから、人差し指だけを真っ直ぐにしたまま下げ、45度くらいにする。そのまま5秒してもとに戻し、5秒、また下げて5秒というふうに、49回繰り返す。さらに5分馬歩とうをする。
 翌日は中指を同様にする。以上は男、女は中指が1日目。
 腰痛のばん指法
 馬歩とう15分してから、くすり指だけを真っ直ぐにして10秒止めておく。その後真っ直ぐにしたまま下げ、45度くらいにする。そのまま10秒。もとに戻して10秒、また下げて10秒というふうに、5回繰り返す。続いて中指7回、小指7回繰り返して、さらに15分馬歩とうをする。
 注意
 ばん指法は意念を伴うので、慎重に行い、収功が必要である。
 ただ数と順序を追うだけでにして、意守や他の意念活動をしないようにして、途中で邪魔がはいらないようにする。また正確に指を動かす必要がある。
 収功は、足をゆっくり伸ばして腰を上げながら、両手を手のひらを向かい合わせてゆっくりちかずけ、胸のだんちゅう穴に気を通し手のひらを下に向けてゆっくり下げる。丹田に気を静め、そのまま手は体の両側に垂らす。