私の気功体験

〜気功教室のある生徒の受験と気功を題材とした論文〜

 

 気功が人体に及ぼす効果について
 気功とは姿勢動作、呼吸、神経と精神の調整を基とする中国の伝統的な健康法です。私が気功とであったのは3年前のことです。最初は受験勉強のための集中力を培おうという目的ではじめましたが、大学に入学してからは他にもいろいろな効果があることを実感するようになりました。その体験を基に、このレポートでは気功が人間に与える効用について考察し、そのメカニズムを文献によって補おうと思います。

気とはなにか
 気功とは気を練るという意味を含んでいるので、気功の話をするにはどうしても気の定義をしておく必要がある。しかし気功における気の定義は一定しておらず、『気の世界』(P、292)によると中国でも気に関して議論が終らない状態で、中国最大の辞書である『辞海』でも「決まらない」と記載されているそうである。
 科学的に気を解明しようという試みも様々におこなわれているが、気が電磁波(赤外線や光)、磁気、放射線、静電気などの性質を有していることはわかっているが、気が一体何であるのかということは確定されていない。
 そこでここでは伝統的な中国の考えに従い、気とは経絡を流れる物質的性質を有した生体エネルギーであるということにしておく。
 ちなみに私にとっての気とは人間は勿論のこと、全ての生命体、又、無生物でも長い時間が蓄積されたもの(ex、鉱物、石など)や思いの込められたものや場所(ex、遺品や信仰の場など)なだどあらゆる所に満ちているエネルギーである。そして心と身体を、自分と世界を結ぶ働きをしているように感じられる。気は人によって見えたり見えなかったり、感じられたり感じられなかったりする。視覚的には白く見える人もいれば様々な色をもって見る人もいる。触感も温度(熱い、冷たいなど)、質感(鈍い、丸い、ふわふわしている、軽い、重いなど)がそれぞれの気によって異なって感じられる。
気という文字は古代中国では風とか風の流れを現していた時代もあった。窓の外をそよそよと吹いている風を部屋の中から見ると、風そのものを見ることはできないが、窓を開けると感じることができる。風の実態はないが、木の葉や草の動きで風を見ることができる。ラジオやテレビはチャンネルを合わせ同調させることによって特定の電波をキャッチすることができる。人体は気を感じる受信機であるとも考えられる。
中国医学では気は精を練ることによって作り出すことができ、気を高めて神を補うことができると説いている。精は食物の栄養や空気中の微量な物質であり、気は父母から受け継いだ先天的な気と、精から作り出される後天的気とがあると言われている。たとえて見れば、精はろうそくの本体で気はその炎であり、神はその光であると言える。

気功の基本理念

・気功の三要素 気功には3つの柱がある。それは調身(姿勢、動作)、調息(食事、呼吸)、調心(意識、神経)です。これらはヨガや日本、中国の武道、座禅などの道に共通するものです。この3つが関連しあい、心身をよい 状態に保つ。
・気功の分類

     硬気功(武術気功)  
 気功
                 外気功  
    軟気功(治療、保健気功) 
                       静功
                 内気功  動功
                       按功  
  (『気功の科学』より)               
 もともと気功は中国で導師、医家、儒者、僧侶、武術家などのさまざまな流派が伝統的培ってきた「気」を鍛錬する諸技術の総称である。大ざっぱな分類をしてみると、まず主に武術によって気を鍛錬する「硬気功」と主に医療や健康の維持増進もために行う気の鍛錬法である「軟気功」がある。そして、軟気功は「外気功」と「内気功」とに分類される。外気功が気功師から発せられる気を受けて病気を治すのに対し、内気功は自身の体内の気をコントロールする訓練である。
 内気功は身体を動かさずに体内の気をコントロールする靜功と、意識的または無意識的に行う身体活動によって行う動功と、按摩やマッサージを伴う按功の3つがある。
現在中国で行われている気功は小周天、導引術などの道家気功、チベット系などの仏家気功、静座などの儒家気功、少林内功などの武術気功、病院などでも積極的にとりいれられている医家気功、八段錦、すわいしょうなどの民間気功である。しかし、最近ではそれぞれの長所をとりいれた総合的な気功が流行している。
気功という名称が定着したのは第二次大戦後の中国で、気功療養所が開設された後のことで、それまでは、導引、静座、忘坐、内丹術、などとそれぞれの流派の呼び方で呼ばれていた。

私の気功体験と心身の変化
 
☆1997年8月 箱根において気功のワークショップに参加する。参加者ほぼ全員が初心者のため、とりあえず気を体験してみようという趣旨で進められる。気感訓練(註)の後基本姿勢の練習をし、何人かで列をつくり、前の人の背中に手をかざし、相手の手の感触を感じあうということをした。
 その後、宿舎内において、立った姿勢や座った姿勢など教えてもらったり、右手と左手の間に通っている気を見たりした。気功の先生は全てのものに気が宿っていること、人間は本来もっている気の他に天や地の気、食物から得られる気で生きていることなどを話してくれた。私はこの時初めて気というものにふれ、気功に興味を抱く。
 
☆1998年4月〜12月 月に一度気功の先生のもとに通い始める。私が当時受験生であったことから勉強に役立てようと集中力を高めることに眼目をおいて教えてもらう。この間に学んだことは以下のようなものである。

・姿勢
 私は幼いころから前かがみになる癖があり、それを徐々にでも治していこうということで常に姿勢に注意するようにした。半日は机に向かう生活をしていたのでその時も常に背筋と首の経絡(註)が通るようにしていた。座禅を組むと姿勢をよく保てるので、椅子の上で座禅を組みながら勉強するようにした。

・呼吸 
前方の空気を細く静かに鼻から吸う。吐くときはお腹の空気を出し切るつもりで丹田に息を落とす意識で息を吐く。空気のよい所ではよい空気を吸って、悪い空気を吐き出すイメージをする。常に吐く息だけを意識し、吸気は自然に任せる。

意識、意念
・気功を行う時は自分の内外の気の流れをイメージする。例えば身体の中の経絡を通っている気を具体的にイメージする。天地の気と自分が交流しているイメージをする。
・頭をクリアーな状態にしたい時は息を吐く時に雑念も一緒に吐き出し、頭が澄んでいるとイメージする。
・机の上の天井にピラミッドを吊るし、そこから出ているパワーを自分が浴びているイメージをする。

・動功 八段錦(8つの動作をそれぞれ8回づつ行うポピュラーな動功)中国の明の時代に流行したという記録が残されている。8つの動作はそれぞれ体内の体液の流れを整える、肺機能の調整、胃腸、肝臓、心臓、腎臓の調整、疲労回復などに効果がある。呼吸を動作に一致させることによってさまざまな効果がえられる。。

・樹木と気の交流をする方法 適当な大きさの木を選び、樹皮に手を当ててそこから伝わってくる木のメッセージを感じる。木からエネルギーをもらったら木に感謝して終る。アメリカの原住民は病気治療の方法として、大木の木の根本に寝たと言われている。樹木の種類によって気の感覚が異なり各種の症状に効果があるらしい。

 このころは気功の効果を実感することはあまりなく、半信半疑で続けていた。朝起きたときや疲れてきた時。集中力が途切れた時に外で15分ほど動功や呼吸法を行った。立っている時も座っている時も常に姿勢に気をつけた。姿勢がいいので肩、首がこらなくなった。

☆1999年3月 受験が終わって一段落つき、1年間を振り返る。1年前と比べて自分が心身共に大きく変化しているのに気づく。その変化は以下の通りである。
 
 ・姿勢がよくなった。
 ・精神的に非常に安定するようになった。
 ・なにごとにも自信が持てるようになった。
 ・今まで閉じこもりがちだった心が開き、人前で話したり、何かをすることにが平気になった。 
 いつのまにか調身、調息、調心の3つは身につき、自然にできるようになっていた。以前の
前かがみの姿勢はもう出なくなっていた。
 16、7才の頃によく陥っていた精神的な落ち込みがずっとなかったことにも気づいた。不安になりうる要因が多くありながらも安定を保ってきた自分に気づく。しかし、それは気功の効果だけではなく、時と共に成長した結果でもあったのだと思う。

☆1999年4月〜7月 4月の上旬に台湾へ行き、朝の公園で外丹功(註)を習う。
 気功を続けつつ、ヨガの教室にも通い、学校で合気道同好会に入る。違う側面から気について考える。気功よりもヨガが、ヨガより合気道の方が身体からのアプローチが強いと感じる。

 もともとこれといった病気はなかったのだが益々元気になった。寝つきが非常によくなった。今まで気になっていたことが次第に気にならなくなってきた。例えば家族との不和、自分の才能の有無、容姿、周囲の者の自分にたいする評価など。自分を客観適的に観察する視点をもてるようになった。また、環境にまどわされずに考えられるようになった。子供が世界が自分中心に回っていると感じるのと似ているのかもしれない。しかし、自己中心ではない。世の中のすべてのものが自分のために存在し、すべてが自分が幸せになれるように動いている、と感じる。花を見て美しいと感じると同時に私をよろこばすために花が咲いてくれたんだと感じる。これは瞑想で言われる「宇宙との一体感」のようなものではないか。

☆1999年9月〜2000年8月 日常的に調心、調身、調息を行う。動功はあまりしなくなる。時々ヨガをする。

 ・寝つき、寝起きがさらによくなる。
 ・人間関係や身なりなどがほとんど気にならなくなる。
 ・自分の精神状態をある程度はコントロールできるようになる。例えば怒ったり気がめいったりしそうな時に呼吸を整えたり体の中から感情を外に捨てたりできるようになりして平穏をたもてるようになった。
 ・他人の気と交流することによって相手の心身の状態が大まかにわかるようになる。例えば頭痛、腹痛、悪寒、発熱、精神の混乱などが相手にあると、それを自分の身体で感じるようになった。 

☆2000年9月 カナダへ行く。朝の公園でただの運動ではなく実践的な太極拳を少し習う。気(英語ではenergyを使っていた)に興味のある人に気功の基本を教えたり、身体の状態を見たりする。
 ダルマダーツメディテーションセンターというチベット密教系の瞑想センターに3,4回足を運び、シンプルな瞑想を教わる。カナダにはこの手の瞑想センターやヨガスタジオが多く、カナダ人の内的世界への情熱の高さに驚かされる。


(註)気感訓練 気を感じやすくするための訓練。まずスワイショウという手を身体の横で振り動かす動作をし、腕を横から天にむかって上げ雲を触るようなつもりで手を動かす。再び手をゆっくり下ろしてきて胸の前で気を練るという動功の一種。両手に気の感覚を生じる。
(註)経絡 体内の気の通り道と考えられる。気の出入り口はいわゆるつぼである。経絡は身体を縦方向に走る、いわばメインストリートとしての経脈と、そこから枝分かれして横行、あるいは斜行する絡脈に分けられる。経脈の全体となるのは十二正経と奇経八脈であり、それぞれ身体の外側や背面を走る陽の経と、腹部や内側を走る陰の経に大別される。
(註)外丹功 大陸から台湾に伝わり纏め上げられた動功。教育現場にも浸透し台湾全土に広まっている。

気功のメカニズム

 私が体験した気功の効果の中で最も中心的なものは、全体的な身体の健康、集中力増進、精神のコントロール、意識の変容であった。これを説明する方法は、たとえば気から説明したり、意識から説明したりといろいろあるが、ここでは呼吸に焦点をおき、文献を参考にして説明していこうと思う。

・丹田呼吸 丹田呼吸というのは気功の基本的な呼吸法である。丹田とは臍の少し下のあたりの部位の名で、そこに力を入れてお腹の中の空気を全部吐くつもりで息を吐く呼吸法が丹田呼吸である。

・血液の循環の増進 丹田呼吸によって横隔膜の大きな上下収縮運動がうながされる。それによってもたらされる肉体面への影響。
 @内臓マッサージ効果 体内の余剰血液は内臓にたくわえられている。内臓を固定している腹膜は消化器官で作り出された栄養分を吸収したり、内臓へ酸素や栄養を供給している。細血管が集中しており、ちょうどぞうきんのようにしぼれば血液が出てくるのである。横隔膜が上下すると汚れた静脈血が絞り出され、内臓も刺激を受ける。血液は繰り上げられるようにして心臓に還流し、血液循環が体の内面からから非常によくなる。内臓は横隔膜と腹筋の動きで内側からマッサージされリフレッシュされる。
 A全身の細胞の活性化 横隔膜は肺をアコーデオンのようにふくらませたり縮めたりしている。大きく上下運動すると十分な酸素が全身に供給される。息を長く吐き続ける結果、通常とは比較にならない大量の酸素が肺に吸入され、ガス交換が活発になり、60兆個といわれる人体の細胞全てに十分な酸素が供給される。特に頭がすっきりする。

 このように血液と酸素の循環がよくなることで全体的な身体の健康がもたらされる。

・自律神経の支配 この身体的変化のほかに、もう一つの呼吸の効果が加わることにより精神面の効果が説明される。長息の丹田呼吸によって瞳孔調節、心臓の搏動、血圧、消化活動などを支配している自律神経の交換神経を抑制することでアルファー波を分泌させ、集中力が生み出される。
 又、精神状態をコントロールする仕組みもここにある。息を十分に吐くことで腹脳が活性化し、“体の脳”である脳幹、脊髄系をよみがえらせる。それによって“心の脳”である旧、古皮質系が調節され、精神が落ち着く。それとともにホルモン分泌も正され、安定した心が得られる。(以上、『健心、健体、呼吸法』P、18〜40、133〜136参照)
 さらに自律神経をコントロールすることによって右脳と左脳の働きがバランスよく活性化されることがアルファー波の計測により確認されている。そして特に気の鍛錬を繰り返し続けることによっておこる右脳の活性化は、左脳が優位に働いている普通の状態では意識下に押さえ込まれている内的世界をはっきり意識化させる意識の変容が起き、閉ざされていた感情、体験、思考に自ら気づき、心も重圧から解放される。これが意識の変容である。(『こころの気功』P、32〜52参照)

 『こころの気功』によると最近、精神科の患者に内因性でなく、心理的な因子が要因となって発病するケースが増えているそうである。それはストレスと同時に非常に律義であったり、几帳面、負けず嫌い、完全性が強いという性格も関与しているということだ。自己規制、自己暗示、先入観、見栄、建前などで自分を縛り、それが身体に影響して心身症になることもある。そしてこの傾向は精神科にかからないまでも現代人のほとんどが多かれ少なかれ持っているものである。社会の変化するテンポが早く、目まぐるしくかわる周囲の変化についていくのに精いっぱいで、自分の内面に眼を向ける余裕のない日本人は特にそうだろう。
気功に興味を持つ精神科医達は患者に気功をとりいれ、良好な結果を得ている。東洋の知恵である気功をカウンセリング、西洋医学と併用することで患者の身体の内部から治癒力を引き出す力になるのである。特に内因的、心理的要因ででてくる症状には有効である。また患者でなくとも気功などの方法により心の重荷を取り除くことは必要なのではないか。
自立神経失調症という言葉をよく耳にするが、具体的にどのような症状なのかはあまり知らなかった。呼吸という観点から見てみると非常にわかりやすいと思った。交感神経と副交感神経が脳髄と内臓をつないでいて、コントロールしている。交感神経は昼の神経といわれ、心臓を活発化させたり、消化器官を休ませたりする。陰陽で言えば陽にあたる。副交感神経は血圧を下げ、安静状態になる。陰にあたる。神経が高ぶったり、落ち込んだりすると、てき面に自律神経の陰陽バランスが乱れ、内臓が不調になる。意識神経と自律神経は影響し合っているのである。
さて、ここで横隔膜の精神面への効用を考えると一つの法則が見えてくる。
それは呼吸が自律神経を調節するということである。
内臓を意識でコントロールすることはできないが、丹田呼吸法によって横隔膜は意識的に動かせるようになる。横隔膜は自律神経でコントロールされながら、意識神経でもコントロールできる。つまり、自律神経へアクセスする窓口といえるのである。
こうして、呼吸を通して自律神経が改善されれば、意識もきわだって変化してくるというわけである。

気功は陰陽のバランスの調整ということもできる。一日の時間の流れも夜から朝を迎えまた、夜になるように変化をしている。人体も同様に陰陽の変化の中にある。毎日の生活の上で陰陽バランスが崩れ、それを回復させるという図式が見えてくる。毎日バランスが乱れ、それを毎日回復させている。回復させる方法がすなわち気功であるとわかった。
気功の呼吸法によって血液循環と酸素の補給、自律神経の調整がうまくいってくれば、ホルモンのバランスも整ってくる。新陳代謝も盛んになる。
ホルモンは情緒とも深い関係がある。
以上のような展開で気功が精神を涵養し、情緒安定に著しい効果があるということが私は納得できたが、さて読者の皆様はいかがでしょうか。

引用文献
戸川芳郎 末長弘行他 『気の世界(1990) 東京大学出版 292
藤木健夫編 『こころの気功』(1995)法研
村木弘昌 『健身、健体呼吸法』(1987)祥伝社
『健康、医療気功ハンドブック』 (1993)ベースボールマガジン社
品川義哉